研究概要 |
近接場走査型顕微鏡(SNOM)は,光の回折限界を超える空間分解能を保有することから近年大いに注目されている。本課題では従来蛍光や発光に限定されていたSNOMの対象分子を光熱変換現象を利用することで,より汎用性の高い測定法に高度化することが目的である。SNOMでは近接場光プローブである開口径100nmの光ファイバーからしみだした非伝播光である近接場光を利用して分子を励起している。光熱変換現象を観測するためには,分子を励起したことによって発生する屈折率変化を別の波長のプローブ光を用いてその偏向による光量変化を検出することになる。その問題点を解決するために,微小開口から漏れた伝播成分の光をプローブ光として利用することを着想した。 倒立型光学顕微鏡をベースに試作した。試料直上から近接場光プローブを導入し,ファイバー先端と試料とのせん断応力の変化を利用する方法により試料とプローブの間隔が10nm以内になるように近づけた。試料は直径10μmの色素吸着粒子を用いた。532nmのNd:YAGレーザー光を励起光とし,633nmのHe-Neレーザー光をプローブ光とし,それぞれを同軸で光ファイバーに導入した。532nmの近接場光によって励起された色素分子が緩和する際に発生する熱による屈折率変化を,633nmのプローブ光の伝播成分の光量変化として測定した。ロックインアンプにより,励起光はチョッパーにより変調され,,APDによって検出されたプローブ光強度と同期検出することにより微小な光量変化を測定することが可能となる。その結果,励起光・プローブ光のみ導入したときのみ,光量変化が観測され,初めて近接場顕微鏡下での光熱変換現象の測定に成功したといえる。今後,空間分解能の評価を行い,本手法の有効性を検証していく予定である。
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