本研究ではC1原料である一酸化炭素の有機分子への組み込みのために、従来法を凌駕する新しいカルボニル化の手法の確立と高度な応用展開を目的とした。従来、エステルやアミドをカルボニル化によって合成するには遷移金属触媒を用いて行うことが常であったが、本研究により、無触媒条件下での一酸化炭素組み込みプロセスによるエステルおよびアミドの合成法の開発に成功した。すなわち脂肪族ヨージドと一酸化炭素との反応をアルコールおよび塩基の存在下に可視光領域を照射するのみで、一炭素増炭したエステルが得られることを見出した。この反応では遷移金属触媒法で経験される異性化生成物はみられず、また触媒や配位子の回収の必要のない、きわめてクリーンな反応プロセスである。本反応はラジカルカルボニル化によるアシルラジカルの生成とヨウ素原子の移動反応を基軸とする可逆反応とこれを正方向の連鎖反応に導くためのイオン的平衡移動を鍵としている。少量のラジカル開始剤を用いた熱的開始条件においても、無触媒型のカルボニル化反応が達成された。 触媒を必要としない本カルボニル化反応条件下での一酸化炭素組み込みプロセスを応用し、ラクトンおよび関連含窒素複素環化合物の合成法を確立した。すなわち、本反応を分子内に水酸基を有するアルキルヨージドに適用したところ、五員環から7員環までのラクトンの合成に成功した。また、ジアミンやヒドロキシアミンなどの二官能性基質を共存させてイオン的捕捉反応を行うことで、各種含窒素複素環化合物の前駆体の合成にも成功した。 さらに、複数の一酸化炭素分子と多段階結合の生成を同時に達成する新手法の開発にも成功した。この反応ではラジカル種と遷移金属種が共同作用する時、最も良好な結果を与える。 これら一連の研究成果は一酸化炭素の新しい活用法をいずれも実現しており、C1資源活用のための新たな方向性を指し示すものと考えられる。
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