研究概要 |
本研究は,これまでの水稲生育モデルと3次元形態情報を有機的に関連付けることによって,実用的で多分野へ応用可能な生育シミュレータを開発しようとするものである.開発を試みるモデルは,イネの基本構造に関するモジュールと生理機能に関するモジュールから構成される.このうち本年度は,基本構造モジュールを開発するための基礎情報を収集した. イネの基本構造は,主として出葉速度,分げつ芽数の決定,分げつの生長,葉身の形態によって決定される.まず,構造決定の基礎になる主稈総葉数の変化を,中川の発育・葉数決定モデルにより表し,形態記述プログラムに導入した.次に,分げつ増加を主稈葉数によって規定される分げつ芽数と分げつ出現歩合の積で表し,分げつ出現歩合が発育ステージによってどのように変化するかを富山における約20年間の作況試験のデータから解析したところ,分げつ出現歩合は移植から分げつ盛期(発育指数=0.7)頃までほぼ直線的に増加し,以降幼穂形成期にかけて急激に減少することがわかった.また,札幌において冷水掛け流し試験を行い,水温が分げつ増加に及ぼす影響を検討したところ,低水温は主として葉齢増加の抑制を通じて分げつ芽数に影響するものの,分げつ出現歩合に対する水温の影響は小さいことが示唆された.ポット試験で得られた葉身の形態情報を解析したところ,葉身長は葉位の正規分布関数として簡便に示されること,分げつ茎の最大葉身長は主茎における分げつ出現位の関数により表されることがわかった.葉身長と葉身幅のアロメトリックな関係を調査したところ,主茎葉,分げつ茎葉,止葉ごとに異なるパラメータが必要であることがわかった.今後,さらに葉身や分げつ茎の3次元位置情報を収集するとともに,群落内の光環境および光合成のアルゴリズムを導入する予定である.
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