研究概要 |
我が国水田の最も代表的な雑草種であるヒエ属雑草の種子休眠機構に関するこれまでの研究をさら進めるとともに、石灰窒素などの休眠覚醒物質を水田の雑草防除に応用することを目的とする3年間の研究の初年度における実績概要は以下のとおりである。 1.ヒエ種子休眠性の生化学的、分子生物学的手法による休眠機構の解明:種子が成熟過程で生じる活性酸素に抗酸化作用をもつ蛋白質1-Cys peroxiredoxinが種子休眠性に関与するとする報告が多数ある。ヒエ属のタイヌビエについても、種子休眠性を遺伝的にもたない栽培型と種子休眠性をもつ雑草型を栽培、採種して、それらの1-Cys peroxiredoxinの遺伝子の単離、発現を調べた。その結果,雑草型、栽培型タイヌビエともに、ゲノム中に少なくとも2種類の1-Cys peroxiredoxin遺伝子配列が存在すること、また,これら2つの遺伝子にはORF配列間に36ケ所塩基置換が認められた。一方,栽培型および雑草型の吸水種子の全RNAを用いて,RT-PCRを行ったところ,雑草型でより強い増幅産物のシグナルが検出され,1-Cys peroxiredoxin遺伝子が休眠種子で強く発現されると推察された. 2.休眠覚醒物質の探索:タイヌビエ休眠種子に対する(CaCN_2)の至適濃度と温度を調べた結果、それぞれ2.5mM、23〜33℃であった。現在、石灰窒素以外の現場の水田で使用できる可能性をもつハロゲンなど環境に有害な元素を含まない休眠覚醒物質を検討している。 3.休眠覚醒物質の圃場での応用試験:土壌表層に260粒/m^2のタイヌビエ休眠種子を含む水田に9下旬石灰窒素肥料を600kg/haで散布した。夏生一年生雑草であるタイヌビエの親個体から脱粒、埋土された休眠種子は、無処理区で年内に全く発芽、発生しなかった。しかし、石灰窒素の600kg/ha施肥区では、11月下旬、タイヌビエ幼植物がそれぞれ199本発生し、これらの幼植物は冬季の低温で枯死した。また、石灰窒素施肥は、土壌中におけるのタイヌビエ種子集団の生理状態にも影響を与え、無処理区の種子が死滅種子8、休眠覚醒種子0、休眠種子92%であったのに対して、600kg/ha区では、それぞれ17,11,72%であった。
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