21世紀に向かって増大する人口を支える食糧増産は最緊急の課題である。現在、地球の全陸地面積の3分の1に相当する乾燥地や塩類土壌地帯における適性品種の選抜が行われているが、目的達成には多大の時間を要する。筆者らは、植物の持つストレス耐性因子(適合溶質)の存在量を定量することにより問題土壌に適性を持った作物品種を選抜する一次スクリーニング法の開発を目指した。本研究では、キャピラリー電気泳動法によるグリシンベタインを始めとする適合溶質の簡便迅速な定量分析法を確立し、それを用いて中国の実際の塩類土壌地帯で採取された植物中の適合溶質の種類と分布および濃度を検証するとともに、適合溶質誘導による植物の耐塩性機構について考察した。さらに植物種における適合溶質誘導能の違い、あるいは同一品種間における適合溶質誘導能の違いを分析的に簡便に計測できるようになったこと、そしてそれが植物の耐塩性とよい相関を示すことを明らかにした。また、適合溶質を誘導できない植物、特にタンパク資源として重要な作物であるマメ科植物は、グリシンベタインを合成できないため塩感受性となり塩類土壌地帯での生産が難しく、有効な生産方法の確立が望まれていた。本研究ででは遺伝子組み替え法によらず、根から適合溶質を吸収させる極めて簡便な方法でマメ科植物に耐塩性を付与できる可能性を示し、実際の中国でのフィールドでも一定の成果をあげることができた。今後、この分析法をストレス耐性植物の一次スクリーニング法として実際の乾燥地や塩類土壌地帯の有用作物品種について耐性品種選抜に広く応用していくことを切望している。
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