レジオネラ属細菌の感染により発症するレジオネラ症は、肺炎と類似の症状を引き起こす疾患であり、適切な治療が行われない場合の致命率が15〜20%に至る。レジオネラ症の発生は、建造物の冷却塔冷却水、空調設備等、あるいは、人体と直接接触する循環式浴用水・プール水等の、閉鎖系環境中でのレジオネラ属細菌の汚染が原因となる。特定の建築物中での集団発症が起こることが特徴であり、その発生は現在も度々社会問題となっており、レジオネラ症の防止は人類の安全な生活を守る上で重要な課題の一つとなっている。 レジオネラ属細菌の培養液中には自身の増殖を阻害する物質が存在すること知られており、その自己増殖阻害物質は内因性活性物質であるためレジオネラ属細菌に対して選択的な抗菌活性を示す。本研究では、レジオネラ属細菌の生産する自己増殖阻害物質を単離し、構造解析を行った後、得られた活性物質を、レジオネラ症防止に有効な抗レジオネラ剤のリード化合物として応用することを目的とする。 本年度はまず、Legionella pneumophilaの自己増殖阻害物質の生産に適した培養条件の検討を行い、培地中にDiaion HP-20を添加すると自己増殖阻害物質はHP-20樹脂に吸着され樹脂よりメタノールで溶出することが判明した。そこで、菌の大量培養を行い、HP-20樹脂よりメタノールで抽出した活性画分を得た酢酸エチルによる溶媒分画では中性区に活性は回収され、シリカゲルクロマトグラフィーによりさらに精製を進めたところ活性物質は複数存在することが判明した。そのうち最も低極性画分に含まれる活性物質を逆相HPLCにより単離し構造解析を行ったところ単体硫黄であることが判明した。単体硫黄はレジオネラ細菌の成育を強く阻害し、現在循環式浴槽等への応用を試みている。
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