本研究では、古川らがこれまでに開発したキトサン銅複合体(CCC)について、木材保存薬剤としての安全性とその効力の持続性について調べ、CCCが環境に優しい木材保存剤であるかどうかを評価した。 CCC自体の安全性は、財団法人食品農医薬品安全性評価センターに試験を外注し、ラットによる急性経口毒性、ウサギ眼による一次刺激性、モルモットの皮膚での一次刺激性と皮膚感作性ならびにバクテリアを用いた復帰突然変異性(遺伝毒性)の5項目によって確認した。眼に対する強い刺激性がある以外は、全ての項目で陰性、すなわち無害、無毒であり、使用上の注意を守っている限り、CCCは極めて安全性の高い薬剤であることが確認された。 またCCCの効力の持続性は、鹿児島県での8年間に及ぶCCC処理杭の野外暴露試験や処理ベンチの暴露試験などによって確認した。CCC処理杭はシロアリ害や腐朽菌害を6年間全く受けることがなかった。試験杭の外観は全く健全な状態を示し、杭内部でも、表面から1mm以内で細胞壁の裂けや壁孔縁の割れが僅かに観察されたが、それより内部の細胞壁は全く劣化しておらず、特に銅含有濃度1kg/m^3レベルでは、表面から1mm深さのところでさえ、全く健全な状態を示した。また、CCC処理スギ丸太ベンチの野外暴露試験で4年間経過した現在でも、劣化は全<なく、長期にわたる防腐・防蟻効力のあることが確認された。 これらのCCC処理材の驚異的な効力発現のメカニズムについて検討した結果、CCC処理材中の銅元素の特異な存在様式、すなわち「木材組織中に張り巡らされた微細な細胞間隙ネットワーク中にだけ選択的に存在すること」が、褐色腐朽菌類やシロアリからの攻撃に対して有効に働いていることが判明した。木材のこのような保存様式は、これまで全く知られていないため、現在、この処理法を特許に申請中である。また、これらの成果を第5回PRWAC及び第4回IWSS(いずれも2002年8月、インドネシアで開催)に発表したところ、高い関心を呼んだ。
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