安定した人工種苗を得るためには、親魚の育成が重要となる。しかし、魚類によってはチョウザメやイトウ、ウナギなどのように、成熟までに長い年月を必要とするものも数多く存在する。このように長期間、種苗生産用親魚を蓄養し、さらに成熟条件を維持するためには大規模な飼育施設が必要であり、これらの施設や親魚の維持管理にかかる費用は莫大なものとなる。これらの問題を解決する一つの方法として、魚体が未熟なうちに生殖腺を取り出し、生体外(試験管内)で配偶子形成を再現し、成熟した卵と精子を得ることが考えられる。 そこで本研究では、ウナギをモデルとして、精子形成制御因子の同定とその作用機構を分子レベルで解明するとともに、その知見をもとに精巣の生体外培養法を改良して、試験管内で機能的かつ大量の精子が得られる技術の開発を図った。その結果、先ず新たな精子形成制御因子として、精原幹細胞増殖因子と精子形成抑制因子を世界で初めて同定することに成功した。さらには、精原細胞から精母細胞への移行を制御するホルモン、すなわち減数分裂誘起ホルモンの存在を初めて示唆した。この様な因子の同定により、試験管内精子作製技術の開発・改良が今後大きく進展することが期待される。また、エレクトロポレーション法による精巣細胞への遺伝子導入技術の確立や、精巣細胞の三次元培養法の検討など、試験管内精子作製の基盤となる生体外培養法の技術的革新がみられたが、残念ながら試験管内で機能的精子を得るまでには至っておらず、これは今後の重要な課題として残された。これらのウナギを用いた研究に加え、イトウでも生体外精子作製技術の確立への道筋がつけられている。以上の様に本研究で得られた成果は、魚類の試験管内精子作製技術を確立するうえで重要な知見を提供するものと確信される。
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