研究課題
アワビ稚貝の成長がサケ成長ホルモンにより著しく促進されるという発見を基に、サケ成長ホルモンの簡便かつ効率的な投与技術を開発することを目的として、昨年度、サケ脳下垂体から調整した成長ホルモン抽出液をアルギン酸と混合して凝固させたサケ成長ホルモン含有ゲルを作成し、これをアワビ稚貝が摂餌すると成長ホルモンが体液中に取り込まれること、1週間毎に投餌すると成長が促進されることを明らかにした。またアワビ脳神経節から成長ホルモンのカルボキシル末端領域に構造が類似するcDNA断片をクローン化した。本年度は、昨年度に引き続き、(1)サケ成長ホルモン含有ゲルの投餌によるアワビ稚貝の成長促進効果を検討した。(2)脳神経節からクローン化した成長ホルモン様タンパク質cDNAを基にして、cDNAおよび遺伝子のクローニングを行った。(1)サケ成長ホルモン抱理ゲルの投餌による成長促進効果サケ脳下垂体から調製した成長ホルモン抽出液(0.5mgおよび5mg)を2%アルギン酸溶液と混合した後、3%塩化カルシウム溶液中で凝固させたサケ成長ホルモン含有ゲルを作成した。0.5mgおよび5mgのサケ成長ホルモン抱理ゲルを1週間毎に52回投餌したアワビ稚貝は、コントールと比べて、いずれも殻長で1.1倍、体重で1.2倍に増加した。また、投餌終了から44週目では、0.5mg群の殻長は1.3倍、体重は1.6倍、また、5mg群の殻長は1.2倍、体重は1.4倍の増加が認められた。さらに、5mgのサケ成長ホルモン含有ゲルを2週間ごとに11回投餌したアワビ稚貝は、コントールと比べて、殻長で1.1倍、体重で1.3倍に増加した。これらの結果は、サケ成長ホルモンをアワビ稚貝の成長促進技術に活用することが可能であると考えられる。(2)アワビの成長ホルモン様タンパク質cDNAのクローニングアワビの成長ホルモン様タンパク質cDNA断片の塩基配列を基にプライマーを作成した。脳神経節から調製した一本鎖cDNAを鋳型としたPCRにより、193塩基からなり44残基のアミノ酸をコードする成長ホルモン様タンパク質cDNAの3'末端領域をクローン化した。本年度にクローン化したcDNAは、これまでに決定したcDNAと比べて、3塩基、また、1アミノ酸残基が異なっていた。新たに決定した部分アミノ酸配列は、成長ホルモン分子族において種間で良く保存されているカルボキシル末端領域の構造に極めて類似し、このcDNA断片が成長ホルモンとしての特徴を有する。
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