研究概要 |
初代培養ラットメサンギウム細胞および株化メサンギウム細胞(Mes13)にカベオリン-1αまたはカベオリン-1βのcDNAを一過性または安定的に導入し,MAPキナーゼ系のシグナル伝達と細胞増殖に対する影響について検討した.使用細胞は内在性のカベオリン-1を発現するので,導入分子にはHAタグを付加し,発現効率と発現増加量を定量的に検討した.低濃度血清で1〜2日間培養した細胞にPDGF,bFGFを投与し,経時的に細胞サンプルを作製して電気泳動,ウェスタンブロッティングを行い,活性化ERK1/2についてチロシン燐酸化分子特異的抗体を用いて検索した.その結果,カベオリン-1発現量の増加に伴い,ERK1/2燐酸化の抑制が観察された.またカベオリン-1を高発現させたMes13細胞では細胞増殖が抑制された.上記の結果はカベオリン-1の発現増加が初代培養メサンギウム細胞の増殖を抑制することを示し,生体内メサンギウム細胞へのカベオリン-1 cDNA導入がメサンギウム増殖性腎炎の治療戦略となりうる可能性を示した. カベオリン-1によるシグナル伝達制御のメカニズムとしては,カベオリン-1分子内のカベオリン骨格ドメインがシグナル分子と直接結合して後者の機能を抑制する機構と,カベオリン-1によるコレステロール輸送能が細胞膜ミクロドメインの機能に影響を与える間接的な機構が想定されている.C末のシステインを置換したカベオリン-1はパルミチン酸が付加されず,コレステロール結合能を欠くと報告されている.このミュータントカベオリン-1をメサンギウム細胞に導入した場合のERK1/2活性化の変化を見ることにより,カベオリン-1によるシグナル伝達制御メカニズムの解析を行う.
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