研究概要 |
従来の私どもの検索で、アポE蛋白とクラスAに属するSR-AI, IIの二重欠損マウスでは、粥状硬化病巣サイズが約60%軽減することが確認された。一方、LDL受容体とSR-AI, IIの二重欠損マウスでは、粥状硬化サイズの減弱は約20%にとどまった。この違いはアポE欠損とLDL受容体欠損という背景となる脂質代謝異常が異なることとともに、いずれの二重欠損マウスもバックグランドが純化されていない雑種であったことが要因と考えられる。今回の研究では、backcrossによってC57BL/6Jに純化されたマウスを用いて、7か月にわたって高脂肪食飼育を行った。その結果、SR-AI, II欠損マウスでは、病巣形成が約70%抑制された。更に、同様の実験系で高脂肪食飼育したC57BL/6Jマウスに抗酸化製剤であるBO-653を同時投与すると、病巣形成が約75%抑制された。つまり、通常の食餌性粥状硬化形成においてはSR-AI, IIの欠損によって、粥状硬化形成が強く抑制されること、さらにBO-653によって脂質酸化を抑制するとSR-AI, II欠損マウスよりも強い病巣形成の抑制効果が得られたことになる。このことは、特定の受容体に対する拮抗剤を開発するよりも、脂質酸化を抑制する抗酸化製剤の方が有効である可能性を示唆している。加えて、今年度は、LDLの修飾因子としてoxidized α1-antitrypsinに注目した。ヒト血漿中には、oxidized α1-antitrypsin/LDL complex(AT-LDL)が存在し、AT-LDLはLDLより4倍速くマクロファージによって取り込まれ、マクロファージの活性化を引き起こす。さらに、ヒトの粥状硬化病巣には、AT-LDLの局在が確認され、AT-LDLが粥状硬化病巣におけるマクロファージの泡沫細胞化と活性化に関与する可能性が示唆された。
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