マラリア伝搬阻止ワクチンは、媒介蚊ステージの中でマラリア原虫の生活環を断つことを目的とするワクチンである。我々はアジア地域で猛威をふるっている三日熱マラリア伝搬阻止ワクチンの開発を目的として、三日熱マラリア実験室内株(Sal1株)からオーキネート表面蛋白Pvs25及びPvs28の遺伝子をクローニングした。次にSal1株由来の遺伝子から酵母を用いて発現させた組み換え蛋白yPvs25又はyPvs28を、アルムアジュバントを用いてマウスに免疫し、その血清をSal1株感染チンパンジー血液と混合した後、数種類のマラリア媒介蚊に吸血させ伝搬阻止活性を検討した。その結果、yPvs25及びyPvs28いずれに対する抗血清も三日熱マラリア原虫の検討したすべての蚊への伝搬を完全に阻止した。本研究は、この抗血清が流行地における三日熱マラリア原虫に対しても上記と同様の伝搬阻止活性を有するかどうかを、タイにおける三日熱マラリア患者由来の原虫と現地での媒介蚊(Anopheles dirus)を用いて検討した。その結果、yPvs25及びyPvs28に対するマウス抗血清は、いずれもタイにおける患者由来の三日熱マラリア原虫の伝搬を阻止することが明らかとなった。また、これらのワクチン抗原をアルムアジュバント及びフロイントアジュバントを用いてウサギに免疫して作成した抗血清の伝搬阻止効果も検討した。その結果、伝搬阻止活性はマウス(アルム)>ウサギ(フロイント)>ウサギ(アルム)の順に低下した。しかし、アルムアジュバントを用いて免疫したウサギ抗血清も蚊1匹あたりの平均オーシスト数を低下させており、有効性は確認された。これらの結果とPvs25およびPvs28の抗原変異を比較すると、Pvs25、Pvs28いずれに対する抗血清もどのように変異があっても強い伝搬阻止活性を示した。
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