全身性エリテマトーデス(SLE)には、心筋梗塞に代表される動脈硬化や血栓症が正常人より、10〜50倍多いことが知られている。また、SLEには高頻度に抗カルジオリピン抗体が出現するが、私は抗カルジオリピン抗体の対応抗原であるβ2-GPIと抗カルジオリピン抗体(抗β2-GPI抗体)が関与し、スカベンジャーレセプターに依存しない酸化LDLのマクロファージへの結合の機序が存在する事を明らかにした。すなわち、動脈硬化の成因である酸化LDLのマクロファージによる細胞内取り込みおよび泡沫化がβ2-GPIおよび抗カルジオリピン抗体(抗β2-GPI抗体)の関与のもとで著しく上昇することを明らかにした。一方、β2-GPIはリポ蛋白リバーゼとしての活性を有し(別名、アポリポ蛋白H)、生体では抗動脈硬化作用(酸化LDLのマクロファージへの結合を抑制する作用)がある。 私は偶然β2-GPIを欠損している姉弟を発見し、その遺伝子解析と凝固学的検索と脂質の検索を行った。その結果、β2-GPI欠損者では329番目のthymineが欠落し、フレームシフトを来たし、β2-GPIの第2ドメイン以降が産生されないことが明らかになった。また、著しい脂質代謝異常(高LDL血症、特にsmall sized LDLの増加)と過凝固を認めた。これまでの健常人800例程の遺伝子解析から、約7%にβ2-GPI遺伝子のヘテロ欠損が329番目の位置に認められる。それらの遺伝子異常と脂質代謝とくにLDLとの関係を解析した。しかし、必ずしもβ2-GPI遺伝子のヘテロ欠損と脂質代謝異常との関係は明らかではなく、また新たに発見されたβ2-GPI欠損者にも明らかな凝固異常や脂質代謝異常も認められなかった。以上の結果から、β2-GPI欠損が必ずしも血栓症のリスクファクターにはならないと考えられた。ただし、β2-GPI遺伝子のヘテロ欠損は相当数存在することから、このような個体に糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満といたようないわゆる生活習慣病のリスファクターが相乗的に作用する可能性は否定できない。
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