本研究では、慢性関節リウマチ(RA)モデル動物の関節局所へのアデノーウィルスベクターを用いた遺伝子導入療法を行っているが、このような関節炎を阻止する試みは多数行われているものの、大量のウイルス粒子自体が関節炎を惹起しうることも報告されている。しかし、低ウイルス量で滑膜への遺伝子導入を果たすことが出来れば、この副作用を阻止できると考えられる。そこで、我々は滑膜線維芽細胞(FLS)がアデノウイルスに対する特異的レセプターを持たないことに着目し、アデノウイルスのウイルスファイバーに遺伝子工学的に改変を加え、感染効率を増加させることを試みた。方法は、古典的アデノウイルスベクター(5型)のファイバーのHIループに細胞表面上のインテグリンと結合するArg-Gly-Asp(RGD)ペプチドをコードする遺伝子を組み込んだ変異体を作成し、また同様にファイバーをアデノウイルス35型のファイバーへと改変した変異体も作成した。これらにつき、green fluorescent protein (GFP)遺伝子発現するユニットを入れて、FLSへ感染させ、GFP発光をレポーターとして発現量をフローサイトメーターで測定した。その結果、各ウイルスを1細胞あたり同じウイルス粒子数で感染させた場合において、2つのファイバー変異体ともGFP陽性細胞の比率が古典的アデノウイノレスベクターに比べ増加しており、特に1細胞あたり500ウイルス粒子数では10倍以上の増加を認めた。したがって、ウイルスファイバーの改変によりFLSへの感染効率が劇的に変化することが明らかとなった。
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