本研究は、私たちが独自に着想した「スプライシング促進配列の機能を阻害してエクソンのスキッピングを誘導し、Duchenne型筋ジストロフィー(以下DMD)の患者の有しているmRNA上のアミノ酸読み取り枠のずれを修正し、ジストロフィン産生能を回復させる」という「DMDをmRNAレベルで治療する」方法をさらに発展させるものである。ここでは、ジストロフィン遺伝子欠失のホットスポット領域のエクソンを欠失するDMD患者から得た筋ジストロフィー細胞で、欠失に隣接したエクソンのスプライシング促進配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入することによりスキッピングを誘導し、mRNAを修正してジストロフィンが合成できることを実証しようとするものである。 このため、まず遺伝子欠失ホットスポット領域に隣接するエクソン43などのエクソンの塩基配列の中から、スプライシング促進能を有すると考えられる配列をポリプリンなどの構造の特徴からスプライシング促進配列の候補として選択してきた。そして、ショウジョウバエDSX遺伝子のエクソン3、イントロン2、エクソン4からなるミニ遺伝子のテスト領域に先に選択した候補配列を組み込み、このキメラ遺伝子からの転写産物を得た。そして、その転写産物をHeLa細胞核抽出液と混じてスプライシング反応を進行させ、スプライシング反応産物である成熟mRNAの産生量を解析した。その結果、ジストロフィンの遺伝子の1部のエクソンのポリプリン配列はスプライシング促進活性を有したが、1部はその活性を示さなかった。このことはポリプリンが必ずしもスプライシング促進配列ではないことを示した。今後、スプライシング促進配列を解明し、その配列に対するアンチセンスオリゴを用いてその治療への応用について検討していく予定である。
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