我々は酸素化perfluorocarbon(PFC)の腹腔内還流が虚血腸管の粘膜防御に有効であることをラット腸管の虚血-再還流モデルを用いて証明した。この効果に着目し、臨床の現場でしばしば遭遇する、出血性ショック(HS)時の酸素化PFCの腹腔内還流が、ショックから蘇生後の多臓器不全の発症を抑制し、生存率の向上に寄与するか否かを実験的に検討した。ラットの大腿動脈からの脱血による出血性モデルにおいて、出血性ショック(30-40mmHg)時に血液ガスや乳酸値の悪化を抑制し、蘇生後の生存率が向上した。このことは本法が将来的には臨床でも有効な手技として応用しうることを示している。更に我々は、独自に開発した耐圧chamberを用いて、5気圧下でPFCを酸素化し、より大量の酸素をPFCに溶存させることに成功した。高圧化酸素溶存PFCを用いて、従来の1気圧下酸素溶存PFCとを比較し、その優位性について検討した。ラット上腸間膜動脈を遮断し、その間、1気圧あるいは5気圧下酸素溶存PFCを腹腔内に投与し、その効果について比較検討した。5気圧下酸素溶存PFCを腹腔内に投与した群では1気圧のそれと比較して、腸管粘膜の保護作用がより強いことが組織学的に明らかとなった。また腸管の透過性をeverted sac model(翻転嚢モデル)を用いて検討したところ、同様に5気圧下酸素溶存PFCは有意に腸管の透過性亢進を抑制した。組織中のATP含量を測定すると、5気圧下酸素溶存PFC群で有意にATP値は高く、腸管の保護効果のメカニズムとして、PFCからより大量の酸素が供給された結果、血流遮断時の組織酸素代謝が維持されたことによると考えられた。以上の結果から、本法は外傷や、多量の出血を伴う手術時の臓器保護に応用可能と考えられ、更なる応用方法や投与手段の研究を続けることにより、臨床応用が可能と考えられた。
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