今回我々は、世界に先駆けてAML2ノックアウトマウスを作製し、その解析を行なったところ、胃粘膜の高度の過形成を認めた。これまでノックアウトマウスで胃粘膜に表現型の変化が認められるものは極めて珍しく、転写因子であるAML2遺伝子が胃粘膜の発生や分化に重要な役割をはたしており、この遺伝子の異常が胃粘膜の脱分化や異常増殖や癌化に関連する可能性が考えられた。 我々は、これまでに胃癌臨床検体におけるAML2の高頻度の欠失と発現低下を確認した。また発現低下の機序がプロモーター領域のメチル化によることを明らかにした。さらに胃癌細胞にAML2遺伝子導入を行ったところ約半数で増殖抑制効果が認められ、ヌードマウスでの造腫瘍性が消失した。これらの結果より胃癌の発生や進展にAML2が関与している可能性が高いと考えられた。これまで胃癌の発生や進展への関与が全く知られていなかったAML2遺伝子が、ノックアウトマウスの解析結果より初めてその胃癌への関与の可能性が示唆された。我々の研究結果は、これまで知られていた胃癌におけるTGFβシグナル伝達系の異常や1p36領域のLOH解析など、これまで個別に行われてきた研究結果を統合的に説明しうる。これらの研究結果は、いまだ明らかでない胃癌の発癌メカニズムに新しい概念を導入することとなろう。さらに臨床においては、1.病理診断で判定困難なクラス3病変の補助診断への応用や胃粘膜の発癌リスク予測などの遺伝子診断2.ウイルスベクターを用いた遺伝子治療への応用などが期待しうると考えられる。
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