研究概要 |
平成12年度までの知見より、骨折部未分化骨芽細胞におけるカルポニン遺伝子の発現を抑制することにより、骨折治癒を促進できる可能性が示唆された。そこで、6週齢雄ICRマウスに肋骨骨折を作製し、筋膜表面から骨折部局所へカルポニン遺伝子mRNAに対するアンチセンスDNAの導入を試みた。ホスホチオエイト修飾アンチセンスオリゴDNA(マウスカルポニン遺伝子の翻訳開始コドンを含む18mers)を37℃でゲル化するpluronic F127gel(BASF, Parsippany, U.S.A.)に4℃で溶解し(2mg/ml)、その10μlを27G針を用いて、骨折48時間後に注入した。対照群には、センスオリゴDNA、5塩基を変異させたアンチセンスオリゴDNAあるいはゲルのみを注入した。オリゴDNAの組織内分布を、ローダミンラベルオリゴDNAを用いて蛍光顕微鏡で確認した。骨折後6日での骨折部組織におけるカルポニンmRNAをRT-PCR法で定量すると、アンチセンスオリゴDNAの投与によってその発現は約70%低下した。骨折後3週での骨折治癒率は、アンチセンスオリゴDNA群:50.9%(28/55)、センスオリゴDNA群:31.3%(16/51)、変異アンチセンスオリゴDNA群:28.6%(4/14)、ゲルのみ投与群:37.5%(6/16)であり、アンチセンスオリゴDNA投与群で有意に骨折治癒の促進が認められた(P<0.05)。さらに、大阪市立大学の小山英則博士と共同で、ヒトカルポニンの全長配列をセンス、アンチセンスの方向に含むRGDペプチド含有ファイバーミュータントアデノウイルスベクターを作成した。このアデノウイルスベクターがマウス血管平滑筋やラット膵腺管由来の細胞で十分量の導入遺伝子のmRNAを発現することを確認し、上述のマウス肋骨骨折モデルでカルポニン遺伝子の発現を抑制できるかどうかを検討中である。
|