研究概要 |
外傷によって皮下軟部組織を失った患者や、顔面の半側の皮下結合織だけが特異的に萎縮する顔面半側萎縮症の患者などの治療には、患者の脂肪組織を採取して、これを必要な部位に移植する脂肪の自家移植法が採用されてきた。しかし、この方法では移植後の吸収や線維化が起こりやすく、移植した体積のかなりの部分が失われる難点があった。脂肪前駆細胞である間葉系幹細胞は結合織に広く分布していて、旺盛な増殖性と遊走性を持っている。我々は、前駆細胞のこの能力を軟部組織欠損創の再建術に利用する目的で動物実験を行い、可逆的な尿素変性で可溶化と再構築ができる基底膜(マトリゲル)を増殖因子と混合してマウス皮下に注入すると、内在性前駆細胞の遊走、増殖と分化が促進されて、任意の部位に、任意の大きさの脂肪組織が新生されることを発見した。本研究では、結合組織(間葉系)幹細胞と呼ばれるこのような内在性細胞の潜在能力をさらに活用した新しい組織再建術の開発を目標とした。すなわち、患者から採取した自家結合織幹細胞を体外で大量培養して移植し、多様な結合組織を再建する新しい術式を模索した。 まず、Yamaguchi et al.(2000)J. Biol. Chem., 275, 29458-29465では、脂肪細胞及び血管内皮細胞が特異的に合成・分泌しているα4鎖の機能領域を明らかにするために組み換え体分子を大量合成し、そのG領域中のヘパリン結合部位を詳しく解析した。鳥山和宏、川口信子(2001)医学のあゆみ、196,373-378では、脂肪組織再建術の歴史と問題点を解説すると共に、我々の新しい試みを紹介した。Tajima et al.,(2001)Biochim. Biophys. Acta,1540, 179-189 では、低酸素分圧で培養下の 3T3-L1 繊維芽細胞の脂肪分化が促進されることを発見し、これがIV型コラーゲンの合成亢進によることを明らかにした。Goto et al.(2001)BiochemJ. 360, 167-172, では、鎖特異的なRNA干渉法を利用してショウジョウバエ・ラミニンのα, β, γ鎖の細胞内会合機構を解析した。北川泰雄、山下泰恒(2001)生化学、73, 1227-1233では、我々が発見したラミニンα4鎖の末梢結合組織形成における役割をその G ドメインの構造との関連で議論し解説した。Toriyama et al.(2002) Tissue Engineering, 8, 157-165では、可溶化基底膜成分の注入による脂肪組織形成過程を電子顕微鏡で観察し、繊維芽状の前駆細胞が基底膜と接触することによって活性化され、同時に侵入する内皮様細胞が作る毛細血管と密接に相互作用しながら脂肪細胞に分化する過程を明らかにした。
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