研究概要 |
モルモット臼歯は歯槽骨-エナメル質およびエナメル質-エナメル質に挟まれた歯周組織を有し、前者では無細胞セメント質が、後者では多量の軟骨様セメント質が形成されることが知られる。しかし、これら異種硬組織の形成がどのように誘導されるかは不明である。 今回我々は4週齢のモルモットにHEBP(8mgP/day/kg)を3, 5, 7, 14日間皮下投与し、上顎臼歯の光顕・電顕観察と、抗アメロジェニン抗体と抗オステオポンチン抗体を用いた免疫組織化学を行った。一部はHEBP投与開始時にカルセインを投与し、研磨標本を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。 その結果、HEBP投与後3日までに基質形成期のエナメル芽細胞層がエナメル質から剥離し、隣接結合組織内にアメロジェニン陽性物質を含むcystが形成された。5〜7日目にはcystを覆う上皮層が断裂し、cystの内容が周囲組織に露出していた。電顕観察の結果、cyst内のエナメルタンパク質が歯根膜腔の基質に直接接している像が確認された。そこで我々はこの系を用いてエナメルタンパク質の歯根膜組織に対する硬組織誘導作用の有無を検討することとした。 HEBP投与14日目には、歯根膜中に残存するエナメル基質周囲に軟骨様組織が形成され、HEBP投与下であるにも拘わらず一部は石灰化していた。Cyst周囲に加え、形成中のエナメル質表層が露出した部分でも軟骨形成が観察された。これらの事実はエナメル基質が歯根膜の未分化間様細胞に作用し、軟骨様組織の形成を誘導したことを意味する。 近年、セメント質の形成誘導にヘルトビッヒ上皮鞘細胞が分泌するエナメルタンパクの関与が示唆されており、エナメル基質を歯周組織再生誘導に用いる試みがなされている。しかし本研究の結果は、少なくともモルモット臼歯では、通常ならば無細胞セメント質が形成される領域にエナメル基質を作用させると、軟骨様組織が誘導されることを明かにしたものである。 今回の結果がエナメルタンパク質の硬組織誘導活性の多様性を意味するのか、あるいはモルモット固有の現象かについて、早急に検討を進める必要がある。
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