研究概要 |
我々は平成13年度までに,コンポジットレジン(CR)に添加されている紫外線吸収剤2-Hydroxy-4-metoxy-benzophenone(HMBP),光増感剤2,2-Dimethoxy-2-phenylacetophenone(BDMK)および重合禁止剤2,6-Di-tert-butyl-p-cresol(BHT)の3種に女性ホルモン様活性を確認した. 平成14年度には,日本国内で入手可能な市販CR24種を用いて,HMBP,DMPAおよびBHTの硬化CRからの溶出量を高速液体クロマトグラフィーにて測定した.また,これらの化学物質のin vivoでの作用発現量を検討し,臨床でのCR充填が人間の健康におよぼすリスクを評価した.なおin vivo実験系は,実験に要する期間,費用,再現性などから,卵巣摘出ラットを用いたuterotrophic assayが最適であると考えた. 24種のCR溶出サンプルのうち12種からHMBPの溶出が確認され,そのうちの2種ではDMPAの溶出も併せて認められた.BHTはすべての溶出サンプルから検出されなかった.そこで,HMBPとDMPAの女性ホルモン様作用発現量をuterotrophic assayにて検討したが,最大600mg/kg/dayの腹腔内投与においても子宮に変化は認められず,このin vivo実験系では,これらの化学物質による女性ホルモン様作用の発現は確認されなかった. 2種の化学物質のラットへの総投与量は,体重50kgの人間に換算すると最大30gに相当する.この30gという量はCRシリンジ400本分に相当し,ひとりの患者には使用し得ない量である.また,硬化CRからのHMBPあるいはDMPAの溶出量は最大2μgであり,30gの1500万分の1となる.すなわち,臨床で充填したCRから女性ホルモン様活性を示す化学物質が口腔内に溶出することは望ましくないが,この溶出により人の健康が害されるリスクは無視できるほど低いものであることが示された. さらに,reporter gene assayと卵巣摘出ラットのuterotrophic assayによる包括的なリスク評価法は,化学物質の女性ホルモン様作用を判定する上で極めて有用であることが示された.
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