研究概要 |
悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は患者のQOLや生存率を著しく低下させる大きな負の要因であり,その治療にビスフォスフォネートなどの破骨細胞性骨吸収阻害剤が用いられている.近年,癌治療の新たな標的として血管新生が注目されているが,申請者は血管新生阻害剤であるフマギリン誘導体TNP-470に血管新生阻害作用のみならず破骨細胞形成抑制作用を介した骨吸収抑制作用があることを明らかにした.今年度の本研究では癌により引き起こされるQOLを著しく低下させる重篤な骨代謝異常である高カルシウム血症(高Ca血症)に対してTNP-470の治療的有用性をあきらかにすると同時に破骨細胞性骨吸収阻害作用が血管新生阻害剤に共通な作用なのかTNP-470に特異的な作用なのかを検証した. 1.PTHrPで刺激した骨芽細胞様細胞のcAMP産生への影響 TNP-470で処理したPTHrPを骨芽細胞様細胞MC-3T3E1に作用させたところ,MC-3T3E1のPTHrP刺激による2ndメッセンジャーであるcAMP発現に影響を与えなかった. 2.高カルシウム血症マウスに対するTNP-470の影響 PTHrP産生ヒト口腔扁平上皮癌細胞株OCC-1をヌードマウスの皮下に移植し,高Ca血症動物モデルを作製し,腫瘍の生着を認めてからTNP-470を投与する群(予防的投与群),高Ca血症が出現してから投与する群(治療的投与群)の2群に分けて経時的に体重,腫瘍体積,血清中の遊離イオンCaの濃度を測定し評価した.いずれの投与方法でも高Ca血症は抑制された.組織学的にはTNP-470投与群では腫瘍内部が壊死を示し,腫瘍体積の抑制,生存率の延長を認めた. 3.各種血管新生阻害剤の破骨細胞形成系への影響 血管新生阻害剤angiostatin,Cyclo,IP-10,Platelet Factor4に関して検討行ったが,破骨細胞性の形成を抑制しなかった.血管新生阻害作用を有するMMPs阻害剤MMI-166も同様に影響を与えなかった.この結果は,少なくとも破骨細胞形成においてTNP-470の破骨細胞形成抑制効果は血管新生抑制剤に共通の現象ではなく特異的な作用である可能性が示唆された.しかし,血管新生作用を有する結合組織増殖因子(CTGF)のアンチセンスオリゴをこの形成系に加えた場合,破骨細胞形成が抑制されたことから,今後検討を要すると考えられた.
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