エイズウイルスはヒト免疫細胞に感染すると、逆転写などのプロセスを経て宿主であるヒトのDNAのなかに組みこまれてプロウイルスとなる。エイズプロウイルス遺伝子のプロモーター領域には2つの連続したκB配列、3つの連続したGCボックス、1つのTATAボックスからなる特徴的な転写制御配列が存在し、それらに結合するNFκB、IIIV-EPl、Splなどの転写因子がエイズウイルスの転写を制御している。 これら転写因子のうちIIIV-EPlとSplが亜鉛フィンガー蛋白質であることに着目し、これらを標的とし、蛋白質の亜鉛部分に相互作用することを目的としてジメチルアミノピリジンとシステアミンからなる対称的構造をもった人工配位子を合成し、30μM濃度でHIV-EPlやSplの亜鉛部分に作用し、これらのDNA結合を阻害することができた。また300μM濃度および30μM濃度ででNFκBとDNAの結合を阻害する化合物の分子設計に成功した。 エイズウイルスの転写制御領域に含まれるκB配列が回文配列の要素をもつこと、および三重らせんを形成しうる部分を含むことに着目し、κB配列をもつ核酸と三重らせんを形成しうるオリゴヌクレオチドを合成し、これに光照射によりDNA切断をひきおこす物質オキサゾールイエローを連結した。この修飾オリゴヌクレオチドにより、光照射条件下、スペルミンの存在下、DNAのκB配列近傍を切断することに成功した。これをさらに発展させ、エイズウイルスのDNA切断による不活化をめざす。
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