本研究は無菌のアイソレーター内で、ランニングホイール付ラットケージを用い、Wistar系Hanoverラットを飼育して行った。ラットの交配、出産、授乳、離乳、運動トレーニングは全てこのアイソレーター内にて行った。親世代からにて4週齢のオス5匹、メス5匹を対象に、8週間の自由運動トレーニングを負荷し、最も走行距離の多かったオスとメス各1匹を抽出、交配させ子供1世代目のラット(オス6匹、メス6匹)を得た。この1世代目の子供ラットを対象に親世代と同様に、低酸素環境にて同様な自由運動を負荷し、子供2世代目(オス5匹、メス5匹)を得た。この実験を繰り返し、現在10世代目の子供の運動負荷が終了し、交配を行っている。全てのラットはエーテル麻酔後、動脈から採血を行った後、肝臓、心臓、脳、横隔膜、副腎、ヒラメ筋およびヒフク筋を採取した。脳は子供1世代目において、小脳、前頭葉、線状体、海馬に分けた。組織の中で最も低酸素に対する感受性が高い脳において、低酸素+運動群では前頭葉でノルエピネフリン、小脳でエピネフリン、線状体でドーパミンが著しく減少し、海馬はいずれの神経伝においても有意な変化は認められなかった。これらの結果から低酸素および運動刺激は脳の部位によってその応答は異なることが明らかとなった。脳以外の部位への低酸素+運動刺激が神経伝達物質に及ぼす影響に関して、肝臓ではノルエピネフリン濃度が低下したのに対し、心臓では逆に増大し、臓器により低酸素および運動刺激の応答は異なることが明らかとなった。さらに低酸素+運動刺激が、抗酸化能力に及ぼす影響に関して、肝臓の還元型グルタチオン(GSH)は低酸素環境で低下し、低酸素+運動刺激により有意に増大した。また低酸素+運動刺激は肝臓での8-OHdG (8-hydroxydeoxyguanosine)濃度を減少させたことから、低酸素+運動刺激は肝臓でのDNA損傷を軽減させることが明らかとなった。近交係数が高まるにつれ(子供4〜5世代目)、走行距離、組織中の抗酸化能力および神経伝達物質親世代に比べ有意に低下した(p<0.05)。しかし子供7世代目になると、走行距離、組織中の抗酸化能力および神経伝達物質は個体差が少なくなり、親世代の値に戻りつつあった。
|