研究概要 |
トリチュウム水や放射線は細胞内に活性ラジカルを生成しこれが遺伝子損傷を誘発する.この損傷修復およびその過程で誘発される突然変異は,自然突然変異が発生する機構と同一と考えられている.大腸菌での解析から,この突然変異の発生は,「誤りがちなDNA修復」に関与するumuC,umuD遺伝子などによって制御されている事が示されている.我々は,酵母で同様な機能を担うREV1遺伝子と相同性を有するヒトcDNA断片(hREV1)の同定に成功した.放射線で誘発される突然変異の線量効果関係とその分子機構を解析する目的の一助としてhREV1の機能解析を行った.その結果,REV1タンパク質はDNAポリメラーゼの活性を持たず,dCMPをプライマーの3'端に特異的に挿入する活性を有した.さらに,REV1タンパク質のdCMP転移活性とDNA結合活性は,損傷乗り越え型のDNAポリメラーゼに保存された領域にあることが示された.一方,HTOβ線に高感度な変異マウスを作成する為に,Rev1トランスジェニックマウスの作成を開始した.この目的の為に,マウスRev1遺伝子のクローニングとその機能解析,及び発現解析を行った.クローニングした遺伝子がマウスのdCMP転移酵素であることを確かめるため,Rev1遺伝子を大腸菌で過剰発現させ,組み替えタンパク質を精製した.生化学的解析の結果,マウスRev1タンパク質はヒトRev1タンパク質同様にdCMP転移酵素であることを証明した.Rev1タンパク質はその生化学的性質から,酸化的DNA損傷の損傷乗り越えDNA複製に関与することが示唆された.そこでRev1遺伝子の発現が電離放射線照射によって誘導されるかどうかを調べた.マウス胎児繊維芽細胞に2.5Gy,5Gy,7.5Gyのγ線を照射した後,mRNAを単離し遺伝子発現の変化をノーザン法により解析した.その結果マウスRev1遺伝子は,γ線5Gyをピークとして若干誘導されることが分かった.また, Rev1遺伝子の発現ベクターを作成し受精卵への導入を開始した.
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