前年度までの結果、フッ素系のイオン交換性の薄膜で電極を被覆することによって、有効電極面積の大幅な増大が可能であることがわかった。そこで次に、電極表面を酸素の溶解度の大きいフッ素の含有量の大きい超薄膜で被覆し、さらにその上にイオン導電率の大きな薄膜層を形成する、傾斜機能性薄膜を作製することを試みた。これにより、有効電極面積の増大のみならず、電極界面での酸素の溶解度の増加による活性化過電圧の低減が期待できる。トリフルオロメタンスルホン酸の流量は変化させずに、ヘキサフルオロプロピレンの流量を変化させて、重合膜中のフッ素含有量を制御することを試みた。 傾斜機能性薄膜で被覆した白金電極と、単一組成膜で被覆した白金電極の分極特性を調べた。条件は、アノード分極特性(水素酸化)およびカソード分極特性(酸素還元)の両者について測定した。傾斜機能性薄膜の場合も、単一組成薄膜の場合もアノード電流に比べて、カソード電流が約一桁程度小さい。アノード分極特性においては、傾斜機能性薄膜で被覆した方が、若干大きい分極を示した。これは、フッ素含有量の大きい層を含む傾斜機能性薄膜の場合は、全体として導電率がわずかに減少し、それによって電極の有効面積の増加が、わずかに少なくなったためと考えられる。しかし、カソードの分極特性においては、傾斜機能性薄膜で被覆した電極の分極は単一組成膜に比べて著しく向上した。アノード分極の場合には、活性化過電圧が小さいために、電極特性は主に水素の拡散によって支配される。ところが、カソード分極特性の場合は、活性化過電圧が大きい。傾斜機能性薄膜と電極との界面でのフッ素含有量の大きな超薄膜層中の酸素の溶解度が大きく、活性化過電圧を低減するために、傾斜機能性薄膜の場合に分極が小さくなったと考えられる。
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