研究課題
基盤研究(B)
本研究では、外部電磁石による磁場印加に伴う種々の障害を取り除き安定に再現性良く動作するX線検出用高性能STJ素子を開発するために、通常の構造のSTJ上に超伝導マイクロストリップコイルが積層した構造を考案し、マイクロストリップコイル集積型超伝導トンネル接合(On-Chip Microstrip Coil Integrated STJ : OC2STJ)素子の試作を行い、外部電磁石を使用することなく高性能X線検出器として動作する可能性を確認した。そこで、STJ上に磁場印加用超伝導マイクロストリップコイルを集積するための作製プロセスを確立し、OC2STJ素子を再現性良く作製することを可能とした。ストリップコイルに数10mAの電流を通電したときの熱暴走を防ぐためのOC^2STJ用冷却カプセルを希釈冷凍機に取り付けて冷却することで、コイルに40mAの電流を通電しても熱暴走が発生することがなく、OC^2STJの検出動作モードを安定に保持することを実証した。しかしながら、希釈冷凍機に接続されたポンプの振動によるマイクロフォニック雑音とポンプモーターの電磁雑音の除去が困難であっため、前置増幅器出力信号の信号対雑音比が低く、応答特性(スペクトル)を得ることができなかった。前置増幅器出力信号の信号対雑音比を高くするために、電荷有感型前置増幅器の初段FETを希釈冷凍機の1Kポット上に取り付けた。FETの動作温度を100Kに保持する必要があり、OC^2STJ素子温度が600mKまで上昇したが、前置増幅器出力の信号対雑音比が改善され、OC^2STJの^<55>Fe線源のX線に対する応答特性(スペクトル)が観測された。STJのバイアス点近傍における漏れ電流が50nA以上で動的抵抗が300Ω程度と小さかったために、5.9keVのX線に対するエネルギー分解能は900eVであった。しかしながら、STJ検出器の動作が非常に安定になり、マイクロストリップコイル電流を調整することにより、外部電磁石では困難であったSTJ検出器の動作モードを調整することが可能となった。以上のことから、漏れ電流が数nAで動的抵抗が100kΩ程度とSTJの品質が高くなれば、5.9keVのX線に対するエネルギー分解能が10eV程度の非常に優れた検出器になることが期待される。
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