二次元電気泳動などから得られるピコモル以下の微量糖蛋白質糖鎖の構造解析を確立する目的で、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分離された糖タンパク質に対して、糖ペプチドのエレクトロスプレーイオン化(ESI)タンデム質量分析による糖鎖構造解析、及び、糖鎖の4-アミノ安息香酸2-ジエチルアミノエチルによる化学誘導化とその構造解析について検討した。ヒトトランスフェリンをモデル糖タンパク質として実験を行った結果、ピコモルレベルの試料で、SDS-PAGE→in-gel酵素消化→糖ペプチドの分離→MS/MSによる糖鎖の構造解析が可能であった。低エネルギー衝突活性化開裂により糖ペプチド糖鎖はグリコシド結合で特異的に開裂を受け、糖の並びや枝分かれ構造に関して有効な情報が得られた。さらに、ESI法と四重極-飛行時間型タンデム質量分析計の組み合わせにより、従来困難であった分子量3000を超える高分子量の糖ペプチドの構造解析が直接行えることを示した。一方、ゲル中で遊離した糖鎖を直接化学誘導化する方法では、化学誘導化におけるロスを最低限に抑え、また、質量分析の際のイオン化に悪影響をおよぼす過剰試薬はアミノプロピル基を有するポリマー担体により効率よく除去でき、さらに、低分子量の水溶性の共雑物は逆相担体により除去する方法を見出した。現在のところ、SDS-PAGEへの最低チャージ量として、ヒトトランスフェリンでは10pmolを用いて誘導化糖のLC/ESI-MSによる糖鎖分析が可能であった。また、MS/MSスペクトルから糖鎖の配列情報を簡便に得るために、観測される断片イオンをもとに、既に開発済みのアミノ酸配列解析用ソフトウェア(SeqMS)を改変して応用した。
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