研究概要 |
細胞増殖因子は正常個体における発生や創傷治癒、再生に不可欠である一方で、その発現の亢進や減少は、多様な疾患の原因となることが知られている。本研究では、Glaドメインを分子内に含む新規な細胞増殖因子Gas6の生理機能を細胞、個体レベルで解明するとともに、種々の疾患におけるGas6の関与を明らかにし、Gas6およびその受容体であるAxl,Sky,Merの発現を測定し、Gas6の特異的な阻害剤の開発とその効果を探ることにより、Gas6関連疾患の診断と治療法を開発することを目的とした。私達は、Gas6がin vitroにおいて腎メサンギウム細胞の増殖を促進し、ワルファリンがGas6のビタミンK依存的ガンマ・カルボキシル化を阻害することによって、その増殖活性を阻害することをすでに報告した。本研究では、Thy1腎炎モデルラットを用いて糸球体腎炎におけるGas6およびその受容体であるAxlのin vivoにおける役割を検討した。その結果、Thy1腎炎においてGas6,Axlの発現は糸球体におけるメサンギウム細胞の増殖に一致して増加した。さらに、ワルファリンおよびAxl-Fc(受容体Axlの細胞外ドメインとIgG Fcの融合蛋白質でGas6の阻害剤として機能する)の投与は、腎炎に伴うメサンギウム細胞の増殖、糸球体硬化、尿中蛋白質の増加を著しく抑制した。これらの結果は、Gas6がin vivoにおいてもメサンギウム細胞の増殖の主要なメディエーターであり、少量のワルファリンやAxl-ECDによりその活性化を阻害することによって糸球体腎炎の予後が改善される可能性が示唆された。
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