神経系細胞種特異的遺伝子導入を目指し、Cre/loxPのシステムを用いたアデノウイルス2重感染のシステムによって、ニューロン特異的、あるいはアストロサイト特異的発現を可能にするウイルスベクターを作成した。ニューロン特異的プロモーターとしてSCG10プロモーター、アストロサイト特異的プロモーターとしてGFAPプロモーターを用い、それぞれの細胞種特異的発現をするCre発現ウイルスを作成した。SCG10プロモーターについては、より特異性を向上させるため、神経特異的サイレンサーエレメント(NRSE)を複数付加した。これらウイルスを培養系にてCre誘導性GFP発現ウイルスと2重感染させると、細胞種特異的にCre/loxPシステムが働き、CAGプロモーターからの強いGFPの発現が誘導された。さらに、この細胞種特異的発現はラット脳内へウィルス接種することでも、神経特異性やアストロサイト特異性は比較的保たれた。しかし、脳の部位によるプロモーターの活性の違いが若干影響し、一部の領域の神経細胞では、発現が弱かった。一方、シュワン細胞特異的プロモーターとして、当初BDNFのタイプIVプロモーターを考えていたが、より高い特異性とプロモーターの短縮化をはかるため、Oct6のプロモーターを組み込んだアデノウイルスの作成を試みた。 Oct6は損傷後のシュワン細胞やシュワノーマなどの腫瘍細胞で強い発現が見られるため、シュワン細胞特異的な遺伝子導入のほか、シュワノーマの治療にも応用できる可能性が期待される。
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