コラーゲンスポンジに皮膚真皮由来の線維芽細胞を組み込んだ「同種培養真皮」を開発し、臨床使用したところ深達性皮膚欠損創の治癒を促進し、移植床の形成にも有効であることが実証された。この同種培養真皮は冷凍保存することが可能であり、広範囲重症熱傷の治療に際しては、自家角化細胞のマトリックスとして緊急利用できる。すなわち、患者自身の皮膚小片から採取した角化細胞を初代培養し、これを解凍した同種培養真皮上で培養して患者に移植する。真皮層に対応する部分は同種の線維芽細胞が存在し、表皮層に対応する部分は自己の角化細胞が存在するので、このようなタイプの培養皮膚を「複合培養皮膚」として分類する。同種の線維芽細胞は種々のサイトカインを産生することにより、疑似真皮層の形成を促進し、同時に自己の角化細胞の増殖と分化を促進することにより表皮の再建を可能にする。 本研究では、同種培養真皮に組み込まれた線維芽細胞が、血管新生を促進するために必要な血管内皮増殖因子(VEGF)を産生することを明らかにした。さらに、表皮形成促進に有効な作用を発現するIL-6を産生することも明らかにした。現在、ヒト線維芽細胞を組み込んだ同種培養真皮を冷凍保存し、これを解凍して、その上にヒト角化細胞を播種して「複合培養皮膚」を作成し、組織学的な研究を展開している。来年度は、この複合培養皮膚をヌードマウスの皮膚全層欠損創に移植して皮膚の再建を組織学的に検討し、予備臨床試験を行う。 皮膚小片から角化細胞と線維芽細胞を同時に採取して、別々に培養すると角化細胞の方が線維芽細胞より早く増殖するため、自己の線維芽細胞をマトリックスに組み込んだ後、その上に自己の角化細胞を播種して培養する手法は、緊急を要する症例においては無理が生じる。そこで、予め冷凍保存した同種培養真皮をマトリックスとして使用する試みは、緊急を要する広範囲重症熱傷の治療に有効と考えられる。
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