研究概要 |
亜鉛イオンの微量分析は,癌疾患の早期診断法や外科的手術の治癒状況を知る視診として,あるいは生体における亜鉛イオンの生理学的な役割を解明するためには必須である。本研究では,生理条件下で亜鉛イオンを捕捉する部分構造と,亜鉛錯体形成と同時に強い蛍光を発生する部分構造を併せもつ蛍光分子を開発し,実用的な生体内亜鉛イオンの定量分析法や画像解析法を開発することを目的としている。独自に合成した蛍光プローブの溶液内における特性をpH滴定法,NMR測定法,蛍光分光分析法などにより詳しく調べた。特に,それら蛍光プローブの水溶液中での安定性,亜鉛イオンの捕捉速度,細胞毒性など実用化に必須の化学的性質を検討した。その結果,直鎖状構造のフレキシブルな構造を持つ配位子は捕捉速度が早いが錯体安定性は小さくなること,環状構造の配位子は安定性は高いが捕捉速度が極めて遅いこと,マイクロモル濃度では細胞毒性がほとんどないこと,12員環のトリアミンが亜鉛捕捉に最も適していることなどが明らかとなった。さらに,可視光に蛍光をもっプローブとしてNBDを共有結合させた環状ポリアミン型蛍光プローブを新たに合成した。現在,亜鉛イオン形成と同時に,蛍光プローブ部分の電荷分布が変化する新しい二波長蛍光分子の合成についても検討している。今後,細胞内に蛍光プローブを導入して細胞内亜鉛イオン濃度の時間分解測定についても検討を行っていく予定である。
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