研究概要 |
本年度は、2000年8月より9月にかけて、クスコ、プーノ、アレキパとその周辺を中心に、ペルー南部アンデス地域所在の植民地時代の教会装飾に関する実地調査をおこなった。調査対象としたのは、クスコ県内において、クスコ市内の他、Andahuaylillas, Ocongate, Huarocondo, Colquepataなど25カ所27教会。つぎにアプリマック県において、Haquira, Mara, Patahuasiなど5カ所5教会。プーノ県において、プーノ市内の他、Pomata, Juli, Azangaroなど15カ所23教会。最後にアレキパ県において、アレキパ市内の他、Chiguata, Yanahuara, Yanque(コルカ谷)など16ヵ所16教会である。なお、これらの教会のほとんどで内部装飾を含む調査・撮影作業をおこなうことができた。 これまで植民地時代アンデスの教会装飾については、「メスティソ様式」とよばれる18世紀の浮彫装飾がもっぱら注目されてきた。この様式概念は、その名のとおり、先住民文化との融合、「混血」を前提としたものである。しかし、その形成プロセスは従来必ずしも明快ではなかった。これに対し、今回の調査では、おもにクスコ県の山間部に散在する17世紀のアドベ造りの聖堂を詳しく調べることにより、18世紀「メスティソ様式」形成の前段階をなすとみるべき壁画装飾の貴重な作例を、数多く確認することができた。これらの聖堂は、交通・治安上の困難もあって、従来十分に研究されてこなかったものである。とりわけ、「メスティソ様式」のモチーフの主要な系統をなす、グロテスク文様のアンデスにおける受容と変容の過程を解明するうえで、壁画の作例は極めて重要な資料になると考えている。また、ヨーロッパにおいて、ほんらいは異教的なモチーフの集合であるグロテスク文様が、植民地アンデスにおいてかなり肥大するかたちで受容されていったことの意味についても、現在検討を進めている。その最初の成果については、すでにスペイン・ラテンアメリカ美術史研究会、および国立民族学博物館の研究会において、専門家を対象とする報告をおこなった。なお本研究は、撮影した写真資料のデータベース化も課題とするが、これについてもホームページにおける公開を目標として作業を開始している。
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