動物遺存体分析による西アジア史再編:家畜化から遊牧的適応の成立まで

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12571041
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 本郷 一美 京都大学, 霊長類研究所, 助手 (20303919)
• 研究分担者: 三宅 裕 東京家政学院大学, 人文学部, 助教授 (60261749) ; 藤井 純夫 金沢大学, 文学部, 助教授 (90238527)
• キーワード: 動物考古学 / 新石器時代 / 西アジア / 家畜化 / 初期遊牧民 / チャヨヌ遺跡 / アカルチャイ・テペ / カア・アブ・トレイハ西

研究概要

西アジアにおける家畜飼育の開始と牧畜文化の発達過程を解明する目的で、トルコ南東部、北西シリア、ヨルダン南東部で調査をおこなった。
トルコ南東部では先土器新石器時代の遺跡であるチャヨヌ遺跡から出土した動物遺存体の分析を進める一方、アカルチャイ遺跡の発掘をおこなった。今年度おこなった分析により、チャヨヌ遺跡では、PPNB中期ごろからヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシの家畜化が始まったと考えられるが、家畜への依存度が高まるのはPPNB終末期から土器新石器時代にかけてであることが明らかになってきた。次年度は、家畜化が始まったPPNB中期の動物遺存体を中心に引き続き分析を進める。
アカルチャイ遺跡では、発掘調査の結果この遺跡が先土器新石器時代から土器新石器時代にかけて連続して居住されていたものであることが明らかになった。これまでシリア国境沿いの地域では、この時期の層位的に連続する遺跡は知られておらず、発掘によって得られた多くの動物骨は本地域における家畜化とその後の家畜利用の問題を検討していく上で貴重な資料となるものである。また北西シリアにおける調査からも、同時期の比較資料を得ることができた。次年度はアカルチャイ遺跡の全容を明らかにするとともに、出土動物骨の分析を進める。
ヨルダン南東部アル・ジャフル盆地では、初期遊牧民遺跡、カア・アブ・トレイハ西遺跡の発掘調査を実施した。その結果、この遺跡が初期遊牧民の「擬集落」であることが判明した。擬集落とは、実際の居住を伴わない疑似住居の集合体のことであり、おそらく初期遊牧民の葬制の一形態と考えられる。擬集落は、遊牧的適応の進行を追尾するための一つの有力な手がかりとなる。次年度は、擬集落の編年的位置づけを明らかにし、遊牧の発生時期と初期の遊牧の形態について調査する。

研究成果

• [文献書誌] Fujii,S.: "Pseudo-Settlement Hypothesis : Evidence from Qa' Abu Tulayha West. Southern Jordan."Preprint for the International Conference of Archaeozoology of Southwestern Asia. (2000)
• [文献書誌] Fujii,S.: "Qa' Abu Tulayha West" An Interim Report of the 2001 Season."Annal of the Department of Antiquities of Jordan. 47. (2001)
• [文献書誌] 藤井純夫: "乾燥地考古学の諸問題:1.遊牧民の考古学的可視性"沙漠研究. 10(4). (2000)
• [文献書誌] Hongo,H.: "Faunal Remains from Prepottery Neolithic Levels at Cayonu, Southeastern Turkey."Preprint for the International Conference of Archaeozoology of Southwestern Asia. (2000)
• [文献書誌] Hongo,H.& Meadow,R.: "Faunal Remains from Prepottery Neolithic Levels at Cayonu, Southeastern Turkey A Preliminary Report Focusing on Pigs (Sus sp.)"Archaeozoology of the Near East : Proceedings of the fourth international symposium on the archaeology of southeastern Asia and adjacent areas.. IV A. 121-140 (2000)
• [文献書誌] Tsuneki,A.,Haydar,J.,Miyake,Y.,Hudson,M.,Arimura,M.,Maeda,O.,Odaka,T.and S.Yano: "Third Preliminary Report of the Excavations at Tell el-Kerkh (1999), Northwestern Syria."Bulletin of the Ancient Orient Museum. XX. 1-32 (2000)
• [文献書誌] Arimura,M.,Balkan-Atli,N.,Borell,F.,Cruells,W.,Duru,G.,Erim-Ozdogan,A.,Ibanez,J.,Maeda,O.,Miyake,Y.,Molist M and M.Ozbasaran: "A New Neolithic Settlement in the Urfa Region : Akarcay Tepe,1999."Anatolica Antiqua. VIII. 227-255 (2000)