初年度にあたる今年度は予定どおり、アジアに重点をおいた環太平洋文化圏において、現地で放映されている映像データを収集することに、わたしたちの精力のほとんどを注ぎこんだ。これは、思ったより大変な仕事であることが、骨にしみてわかった。映像の収集のためには、機材をひとそろい現地に運んでいかなければならず、肉体的な強靭さが要求された。また、理論的には動くはずの機器が作動しないという初歩的なつまずきがあったり、現地でストーカーに悩まされたりといった具合に、困難につぐ困難が待ちうけていた。それにもかかわらず、今泉容子(筑波大学文芸・言語学系)と中村裕一(同大学機能工学系)は合計11回におよぶ海外での映像データ収集を果たした。はじめのうちはさまざまな種類の映像を収集していたが、焦点をもっとしぼったほうがいいと判断し、テレビコマーシャルの映像収集に的をしぼることにした。来年度も予定どおり、現地におもむいてデータ収集をつづける予定である。 本研究の最終目的は、日本をふくめたアジア諸国の映像「文法」を客観的に検出して、そこに反映された思考・心理形態を比較考察することであるが、本年度は日本の映像の分析に着手した。まだ基本的なショット分析にとどまってはいるが、その分析結果は「テレビコマーシャルの食シーンに見る女たち」という論文として『文藝言語研究』(筑波大学文芸・言語学系の紀要)に発表される。 収集したデータの加工・保存は、続行中である。膨大な量の映像データを分類して、CDに焼きつける作業は、物理的にどうしても長時間かかってしまう。データベースの作成方法については、適切な方法をはやく確立する必要があると思っている。
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