本研究の課題は、市民社会形成というタイ社会の動き、言論界の問題意識をふまえた上で、タイの東北地域が経済危機以後どのように地域杜会を形成し、地域なりの自治・社会発展を模索しているのかを明らかにしようとするものである。研究対象は第一に、住民の自治・自助組織、開発NGO、開発行政機関、社会教育のセンターとして機能する地方大学、開発に従事する僧侶等、地域社会形成の推進役を務める機関・地域の指導者層である。第二に、こうした働きかけを受けて動き出す農民、労働者であり、彼らの農業生産・労働過程、生活構造が分析の対象になる。本研究は、マクロな社会動態を分析した先行研究の蓄積を生かしつつ、コミュニティ、農民・労働者層のアイデンティティをミクロな分析で捉える新局面を開拓したいと考えた。 3年間の研究成果は研究成果報告書に結実している。研究代表者が所属する北海道大学で、平成15年2月4-5日に国際シンポジウムRegional Development of Northeast Thailand and Formation of Thai Civil Societyを開催し、3年間の研究を総括すると共に、各研究者の報告を英文・タイ語の報告書として提出してもらった。科研の研究報告書はここで発表された分担研究者、研究協力者の発表を、会議中の議論をふまえて、修正、加筆したものである。 また、本研究で心がけたことは、タイ研究者、東北タイ地域拠点大学との連携であり、今後の研究協力への基礎を作ったといえる。さらに、3名の若手タイ研究者(博士課程在籍)に3年間調査旅費を支給し、研究会を年度ごとに設けた点で、本科研研究は、後進の育成にも貢献したといえる。大学ごとに研究拠点を形成ことで国際的研究を目指す動きと併せて、国内外の大学間における研究連携も重要である。
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