本年度は4年間の研究期間の初年度にあたるものであり、主として問題点の洗い出しのための調査に注力するとともに、現在国際的に注目を集めている証券振替決済法制についての研究を行った。具体的な実績としては以下のとおりである。 1.証券振替決済法制についての各国調査及び研究成果の発表 近時、日本においても立法作業が進められている証券振替決済法制について、米、英、独の状況を調査し、このうち、法制整備が最も進んでいる米国の状況については論文(論文目録記載のもの)としてその成果を発表した。英、独の状況、及び、日本の法制のあり方等についての研究結果については、平成13年2月から3月にかけて実施した米国、英国での現地調査の結果も踏まえ、現在その成果の発表に向けた準備中であり、次年度はじめには成果を公表する予定である。2.金融取引における取引当事者の私法的な権利の保護についての英米の状況の調査 (1)現時点における基本的な問題意識について、平成12年10月に実施された私法学会の個別報告として、森下が「銀行倒産における取引相手方の権利保護のあり方について」と題する報告を行った。 (2)金融取引において取引相手方が倒産した場合、その取引相手方の私法的な権利の保護との関係では、英米では信託法理が重要な役割を果たしているが、前記の米国、英国での現地調査を含め、こうした英米の状況の精査を進めた。この結果、(1)英国と米国では、特に擬制信託法理の位置付けなどの重要な点で相違があること、(2)特に英国においては現状回復との関係での信託法理の位置付けについて判例・学説に議論の混乱がみられること、などが明らかとなった。次年度においては、こうした英米の信託法理の現状を解明するとともに、金融取引との関係における金銭の法的位置付けについても一層本格的な調査・研究を進める予定である。
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