当研究は二つの研究テーマを統合したものである。一つは、フランスの35時間労働法によって引き起された自動車産業における労働慣行の変化(ワークシェアリングと労働時間のフレキシブル化)の実態を調査研究することであり、もう一つは、このような労働環境のもとで、2001年に操業を開始したフランス・トヨタによるトヨタ生産システムの適用実態を追跡調査することである。平成14年度の研究実績は以下の通りである。 (1)トヨタ・フランスの研究 2000年6月、2001年6月に続いて2002年6月10日にトヨタ・フランスを訪問し、工場見学を行った後、トヨタ・フランスの現状について一般的な説明を受けた。ただし、工場見学についてはボディー工程と最終組立工程の見学は依然として認められず、工場そのものが安定稼働するには時間がかかるといった印象を得、組立工程に関する観察は次年度に期待するほか無い。また、立ち上げから3年間は「そっとしてほしい」というトヨタ側の希望を尊重せざるを得ず、労働条件や労働編成等に関する詳しい調査は平成15年度に期待するほか無い。ただし、2003年3月にトヨタ・フランスに部品を供給している企業の責任者と接触し、同氏からトヨタ・フランスとの取引関係の概略の説明を受けるとともに、2003年6月に改めて聞き取り調査を行うことについて了解を得た。 (2)フランス自動車メーカーにおける35時間労働の実態調査 フランスの35時間労働法の立案に参画したD.タデイ教授とG.セット教授に対する聞き取り調査は2000年に終了し、ルノーおよびプジョーSAにおける35時間労働実施のための企業内労使間協定および工場内労使間協定についての聞き取り調査は2002年度に終了している。本年度は、自動車産業部門協定のほか、他産業における労使間協定、35時間労働の実態調査報告書・研究書等の収集を行った。 研究成果の発表については、自動車メーカーにおける35時間労働の実態について進化経済学会「制度の政治経済学」部会(2001年9月)および進化経済学会大会(関西大学、2003年3月)において報告してきたが、本年度は収集した資料を整理しつつ、D.タデイ教授等に対する聞き取り調査に基づいた最初の論文「フランス35時間労働法の性格と意義」を執筆した(2003年3月刊)。
|