本年度における研究では高齢者および障害者を考慮した歩行者用案内表示システムに関する技術について、調査したアジア・オセアニア地域のデータを整理、分析するとともに、福祉のまちづくりとしてどのように普及定着しているか、我が国の整備過程をふまえて、これら地域における現状と課題を整理した。その結果、次のことが明らかになった。 (1)各国各都市において都市化の進行により高齢者や障害者にとってわかりにくく危険な空間が形成され、安全・快適性に支障をきたす事例が多い。その中でも新たに整備された国際空港などのターミナル空間においては障害者を考慮した配慮が施されている事例が比較的多い。 (2)アジア地域での福祉のまちづくりとして普及している歩行者用案内表示については、中国、台湾、韓国などにおいて点字ブロック等の普及は進展しつつあるものの、その規格は不統一であり、敷設についての合理的一般化にいたっていないのが現状である。また、一般的な生活環境における歩行者用案内表示については、トイレ等においてピクトグラム(絵文字)を用いたものが普及しているが、特に視覚障害者や聴覚障害者等を考慮したものは普及していない。 (3)オセアニア地域では他のアジア地域に比して、比較的欧米の水準で生活環境における歩行者案内表示システムが整備されていたが、高齢者・障害者に対する配慮としてはまだ未整備の部分も多い。 (4)日本では、視覚障害者の歩行者用案内表示として点字ブロックが普及している。点字ブロックおよびピクトグラムについてJISが制定され、標準化への動きが加速されようとしている。交差点やプラットホームなどの危険個所について安全な歩行者誘導を図るための技術導入が試みられつつある。 (5)北欧の福祉先進国では特別な技術ではないが、デンマークの事例のように五感を活用した空間そのものから得られる情報を高齢者や障害者の歩行案内に活用する試みが確認できた。今後、案内表示の技術やシステムに関するガイドライン策定など、地域を越えた標準化が求められる。
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