研究概要 |
我が国における過去約半世紀における水文地形環境(土砂移動環境)の変動は大地の人為的改変・都市化という大規模な土地利用形態の変化が関係していることが多い.一方,中国雲南の場合は農業における集団化およびその後の開放経済体制がもたらした土地利用形態の変化は水文地形環境にも広く影響を及ぼし始めているが,都市域近傍の大きな影響が認められるところと農山村部の影響が少ない地域と顕著な差が認められる.しかしながら,いずれの地域においてもアジアモンスーンを背景とする自然災害等に関係する水文地形環境の変化は共通の背景として存在する.つまり自然による変化と人為的な変化の位相差は,人間と水文地形環境の係わりの考察に関する絶好の場を与えることになる.さらにこの水文地形環境の変動は環境汚染に関係することも多く,わが国では従来から指摘されているが,雲南地域とりわけ昆明等の都市域では,その存在が大きく取上げられてきているのが現状である.従って,過去50年間における杜会的背景(経済の高度成長と社会主義集団化・開放経済体制)および水文地形環境の変化を定量的に明らかにすることは,人為的な大地への働きかけが人間の活動空間およびその自然環境へもたらした影響を評価することに繋がり,今後の人間の活動空間と自然環境の調和を考察するための不可欠な貴重な記録となり得る. 筆者を中心とする研究グループは,これまでに戦後改変された農地等の地形改変地および湖沼が存在する流域(金沢近郊)および経済の高度成長に伴う都市化が著しく湖沼が存在する流域(神戸)を対象として過去70年間の侵食環境の変動と自然災害について研究を進めてきた.一方,中国雲南では,雲南省地理研究所を中心に,農業の集団化・開放経済体制による土地利用形態の変化と土砂災害の問題が主として現地調査,地形図の読図,空中写真の解析等から進められてきている.このような経緯を背景に,両者の中国雲南における近年にける土地利用形態の変化・地形改変と水文地形環境の変動に関する共同調査研究を行ったが,地震の影響(1970年通海地震等)の他に人為的な社会・経済システム(大躍進政策,文化大革命開放,開放経済政策等)の影響も認められることを明らかにした。
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