研究概要 |
本年度5月に実施した現地調査をもって試料の採集を終了し,前々年度ならびに前年度に採集した湖底堆積物試料の解析およびその結果のとりまとめをまず解析分野ごとに実施した.そして,本年度10月にカンボジア王国プノンペン市鉱工業省講堂にて開催したシンポジウムでそれぞれの成果を発表し,同年度11月に金沢市で開催した総合討論会および将来検討会においてそれぞれの解析分野を相互に参照しながらとりまとめた.その結果として明らかになった事実は以下のとおりである.1.トンレサップ湖は約7,600年前に誕生した.2.誕生当時から約5,500年前までのトンレサップ湖は現在のトンレサップ盆地に散在する小湖沼群であった.これを古トンレサップ湖と名付ける.3.古トンレサップ湖は周辺からもたらされる土砂によっての埋積が年平均1mm前後で進行していた.4.約5,500年前の海面高頂期にトンレサップ盆地へメコン河の水が流れ込むようになり,それによって巨大湖トンレサップが出現した.5.約5,500年前以降のトンレサップ湖は流入する土砂と流出する土砂の均衡がとれるようになり,そのため湖の埋積は事実上停止し安定した水域として存在している.6.湖底柱状堆積物に含まれる珪藻化石群集は,数百年周期での量的な増減はみられるものの過去7,600年間をとおして淡水生種のみから構成される.7.湖底表層堆積物に含まれる介形虫群集は常時水のある区域に生息する種類と浸水林域を含む区域に棲む種類とに大きく2分され,これはその生活様式に起因するものと推定される.8.底生・浮遊性有孔虫は,柱状試料・表層試料ともにまったく見いだせない.9.過去7,600年間をとおして花粉群集組成に変化は見いだせない.しかし,約15,000年前の試料に含まれる花粉は当時の気候がより湿潤であったことを示しており,これはカンボジアでは約15,000年前から約7,600年前にかけて乾燥化が進行したことを意味する可能性がある.
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