研究課題
平成14年度は、昨年度ハノイ市内の4箇所の水源井戸から持ち帰った土壌コアサンプルについて、成分分析、SEM-EDX分析、砒素溶出実験を行った。土壌コアサンプルの成分分析においては、炭素、窒素、鉄、アンモニア、砒素および微量元素の含有量を分析した他、砒素及びアンモニアについては、存在形態別の分析を行った。一般に鉄の含有量はラテライト層の影響で3〜5%の範囲にあったが、炭素及び窒素の含有量は土壌中の有機物含有量の変動により大きく変動した。このうち、炭素含有量3%以上で、黒色、植物残留物などが観察される土壌をピート層とした。一般に、土壌中の砒素含有量は平均5〜6ppmと言われているが、ハノイ市内で採取した土壌では、1ppm未満から20ppm以上と幅があった。現在、砒素の存在形態は酸化鉄に結合しているとする説が主流であるが、我々の調査では、土壌中の鉄含有量と砒素含有量との相関は認められなかった。一方、高濃度の砒素を含む土壌のほとんどはピート層から得られており、ピート層の形成過程と砒素濃縮との関係が疑われた。一方、地下水中の砒素濃度が低い地域から採取したピート層を分析したところ、砒素含有量は6ppm程度と、平均的な値であった。高濃度の砒素を含むピート層土壌をについて、砒素の存在形態を分析したところ、有機物に結合して存在する砒素は30%以下であり、鉄と結合または付着して存在する成分は50%〜70%と高かった。これらのピート層の花粉成分分析により、高濃度の砒素を含むピート層はマングローブを含む汽水域から形成されたことが示された。文献によると、マングローブは植物生体内に砒素を濃縮する他、根圏は好気的になり酸化鉄を集積する結果、砒素を濃縮すると報告されている。本研究では、このようなマングローブの生態系が砒素の濃縮に寄与したことが示された。
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