汎熱帯的に広く分布する植物の中には種子の散布を海流に頼るものが多い。陸上植物にとっての海洋は、一般に分布を分断する地理的障壁だが、これらの植物では分散を助け、また遺伝的交流を即す働きをしていると考えられる。汎熱帯種について、核遺伝子等による遺伝マーカーを用い、1)世界を一周するような広域分布種では集団間の遺伝子交流がどの程度行われているか、2)海流散布植物の由来、を考察するのが本研究の目的である。 代表的汎熱帯種のグンバイヒルガオとナガミハマナタマメについて、太平洋、大西洋、インド洋の沿岸地域で自生集団を探索し、集団サンプリングを行った。その結果、一部の地域を除きほぼ全主要分布域をカバーできた。現地では、個体ごとに生葉の乾燥試料、乾燥標本、花の液浸標本を作成し、種子を収集した。乾燥葉からDNAを抽出し、主にダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定し、解析を行った。 グンバイヒルガオの葉緑体DNAの4遺伝子間領域と2つのイントロンについて比較したところ、全ての集団間で塩基配列に違いが見られず、全世界のグンバイヒルガオの集団間で、移住が頻繁に起こっている可能性が示唆された。一方、核DNAのDFR-B遺伝子の第3イントロンでは変異が多く、地域間、集団間で非常に分化していることが分かった。特に、太平洋、大西洋、インド洋の大洋ごとの分化が大きいことが示された。今後、未決定の配列データを収集すると共に、解析方法を開発して、分布拡大の方向についても研究を進める予定である。 同時に、琉球列島や小笠原諸島を中心に海流散布植物の種構成や形態を検討し、アオイ科のオオハマボウ、マメ科のナガミハマナタマメ、ワニグチモダマの漂着体による分布の拡大、さらに拡大地域でのナガミハマナタマメの送粉、オオハマボウとテリハハマボウの朔果による区別などの知見を得た。また、琉球列島の海岸に漂着する種子や果実を同定し、海流散布能を検討した。
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