研究課題
ブラジルではウシの飼育頭数が世界の12%、草地面積も世界全体の16%を占めるなど、畜産業は国内基幹産業として重要な地位を占めている。さらに、ブラジルの畜産は21世紀には世界の食料庫としても重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、家畜の多くは粗放な放牧形態で飼養されているため、草地に棲息するダニの吸血によって媒介されるピロプラズマ病によって、大きな損耗を強いられている。加えて、ブラジルをはじめとする南米諸国は、ウシ、ウマなどの家畜導入がコロンブス以後という歴史的経緯を有しているため、ヨーロッパやアジアなどの地域に比べ、家畜の原虫病を含む各種疾病の流行の歴史がはるかに短いという、他に類のない大きな特徴が存在している。しかも、ブラジルで現在ピロプラズマ病を媒介しているダニの大半は、南米大陸に固有の種類であることが判明している。したがって、約500年前に初めてピロプラズマ感染家畜に接して吸血機会を得た南米大陸のマダニが、どのような相互作用を経て「家畜-原虫-ダニ」の3者関係を成立させ、現在認められるような原虫媒介能を獲得したかについて探求するすることは、ブラジルなど南米諸国のピロプラズマ原虫の起源・進化を明らかにすることができるばかりでなく、近年、我が国を含む内外において医学・獣医学分野で大きな問題になっている新興感染症(エマージング感染症)の成立に関しても、学術的に興味深い示唆を得る可能性があるものと考えられる。このような社会的ならびに学術的背景に鑑み、本研究は、独自に開発したウマバベシアやウシバベシア、あるいは各種タイレリアなどの原虫病に対する遺伝子診断や組み換え体抗原を用いた血清診断の技術を用いて、ブラジルの主要家畜のピロプラズマ病の流行動態、病原虫の生物学的性状などを、分子・遺伝子レベルで詳細に明らかにすることを最終目標とするものである。平成14年度においては、ブラジル・サンパウロ州を主要な調査地域として、(1)ウマ、ウシのピロプラズマ病を含む住血原虫病全般の発生状況(ELISAによる血清抗体調査)、(2)媒介ダニ体内からの病原虫DNAの検出、診断用遺伝子の断片の分離と性状比較などを実施するとともに、これらの解明に必要な基礎的技法の開発・検討を行った。
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