研究概要 |
1.遺伝子異常の解析(研究発表の2,3,7,10) (1)北京の19例と本邦の23例の癌抑制遺伝子であるp53の変異をエクソン5-8について、PCR-SSOP法・直接シークエンス法を用いて検討した。42例中20例(47.6%)に変異がみられ、その6割はミスセンス変異であった。変異の頻度は北京では63%、本邦では39%と地域差があった。 (2)c-kit遺伝子のエクソン11,17には造血腫瘍、腸管間質細胞腫瘍において変異がみられることが報告されている。この変異により、c-kit蛋白はリガンドなく活性化することにより腫瘍発生に至ると考えられている。 そこで北京の14例と大阪の9例につき、c-kit遺伝子変異を調べたところ、中国例では10例(71.4%)に大阪例では2例(22%)に変異がみられた。この変異遺伝子及びwild typeのc-kit遺伝子を293T細胞にトランスフェクトしたところ、いづれもリガンド(SOF)なしには構成的活性化あるいはリン酸化がなかったことから、本疾患にみられた変異は機能獲得性でないことが判明した。 (3)中国東北部にある中国医科大学の20症例につき、p53(エクソン4-8)、c-kit(エクソン11,17)、k-ras(エクソン1,2)、β-catenin(エクソン3)遺伝子の変異を調べた。p53の変異は40%にみられたが、本邦例に比べてエクソン4の変異の頻度は有意に低かった。c-kit遺伝子変異は5%と北京例に比べて有意に低い。k-ras遺伝子変異は5%、β-catenin変異は30%にみられた。 以上述べた如く、鼻腔NK/T細胞リンパ腫の癌遺伝子、癌抑制遺伝子変異の頻度およびそのパターンには地域間で相違がみられるようである。現在、更に韓国およびインドネシアの症例について追加検討中である。 2.鼻腔NK/T細胞リンパ腫の家族内発生について(研究発表6) 沖縄の父子に発生した本疾患を報告した。本疾患は東アジア地区においても頻度の低いものであり、家族内発生は文献上最初のものであった。この父子はいづれも同じビニールハウスで大量の農薬を使用して野菜の栽培をしていたのが際立った特徴である。 1、2に述べた成果を基盤として、農薬を含む生活環境要因と本疾患発生の関係を調べるためのアンケート用紙を作製し、本邦の10大学、3病院、韓国の2大学、中国の1大学での疫学調査を開始している。 3.その他 (1)鼻腔NK/T細胞リンパ腫患者とHLA(研究発表4) 本疾患はEBV陽性であり、潜伏感染遺伝子の一つであるLMP-1を発現する。LMP-1は宿主のcytotoxic T-lymphocyte(CIL)のターゲットとなるが、その際HLA dass I分子のA2,11がCIL反応の効果的な誘導に必要であることが分かっている。そこで本疾患患者におけるHLAA2,11の頻度を本邦の健常人と比較したところ、HLAA0201の頻度が患者では有意に低いことが判明した。このことはHLAA0201拘束性のCIL反応が本疾患の発生を抑えていることを示唆するものであった。 (2)鼻腔NK/T細胞リンパ腫におけるFas変異(研究発表8) Fasはアポトーシスシグナルを伝達する細胞表面レセプターである。Fas遺伝子の変異を14例の本疾患で調べたところ、7例に変異(4例はフレームシフト、2例はミスセンス、1例はサイレント)を認めた。マウスT細胞リンパ腫細胞にこの変異FAS遺伝子(フレームシフト)をトランスフェクトしたところ、Fas抗体によるアポトーシス誘導に抵抗性となった。 以上の所見によりFas遺伝子変異によるlympholdoellの蓄積が本疾患の発生の基盤となっていることが示唆された。
|