研究概要 |
タイ国においては1987年以降HIV感染者が増加し、AIDS患者に合併した呼吸器感染症が急増している。我々はチェンマイ大学との学術交流協定に基ずいてこれまでタイ国北部地域における急性呼吸器感染症治療法の研究を行ってきた。特に平成9年度からはAIDSに合併した市中肺炎に焦点をあて、起炎病原体と治療法の実態調査および治療効果判定を行っている。今回我々は、引き続きHIV感染者に合併した肺炎症例において、適切な検査を施行し、かつ原因病原体を明確にすることで適切な抗菌化学療法を確率し、AIDS患者の予後を改善することを目的として以下の検討を行った。1997年4月よりチェンマイの第一線病院であるナコンピン病院において入院治療を行ったHIV感染者に合併した肺炎症例について、胸部X線写真、喀痰検査(一般細菌、抗酸菌等の塗沫、培養)、血液培養、血液生化学検査を施行し、臨床症状とともに経過を観察した。細菌学的検査はチェンマイ大学附属病院中央検査部にて行い、起炎菌の薬剤感受性(MIC)は長崎大学熱帯医学研究所において施行した。計191症例の症例が検討され、病型は肺炎90例、カリニー肺炎46例、肺抗酸菌症31例、肺化膿症12例、肺ノカルジア症9例、胸膜炎3例、膿胸1例であった。CD4, CD4/CD8の平均値はそれぞれ68.4/mm3, 0.10で喀痰中分離菌はHemophilus influenzae 38例,Pseudomonas aeruginosa 12例,Streptococcus pneumoniae 10例,Staphylococcus aureus 9例,Rhodococcus equi 9例の順に多かった。合併症では敗血症20例、Penicillium marneffei感染症18例、髄膜炎5例(クリプトコッカス性3例、結核性2例)が起こり、21例(10.9%)は死亡した。
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