研究概要 |
1949年から1989年の間に,旧ソ連(現カザフスタン共和国)セミパラチンスク核実験場(SNT)において458回の核実験(地上30回,大気中88回,地下340回)が行われた。これら核実験はセミパラチンスク地域住民に急性・慢性の放射能被爆をもたらし,高い頻度で造血系,循環器系,腫瘍性疾患等が発症していることが報告されている。 私たちは,平成12年8月にSNT周辺の高線量被爆地域(1.0Sv以上),中等度被爆地域(0.5-1.0Sv)対照地域(0.03-0.07Sv)住民における唇顎口蓋裂等の先天異常,口腔疾患および全身疾患罹患率の調査研究を行い,唇顎口蓋裂発症率および口腔疾患罹患率は中等度被爆地域や対照地域と比較して有意に上昇(p<0.001)していることを報告した。 本年度は,平成14年8月にSNT周辺の高線量被爆地域3地区(ドロン,サルジャール,カラウル地区)および対照地域1地区(コクペッティー地区)の計338名の成人住民の口腔疾患および全身疾患罹患率の調査を行った。その結果,高線量被爆地域住民の欠損歯数(p<0.001),歯周病等の口腔疾患罹患率(p<0.001),全身疾患罹患率(p<0.001)は対照地域の同年齢群と比較して有意に上昇していることが明らかとなり,昨年の結果がさらに裏付けられた。 さらに,対象をコクペッティー地区とサルジャール地区の51〜55才の成人に限定し,因子A[IL-1α(889)およびIL-1β(-511)遺伝子多型]と因子B[地域差]を従属変数,喪失歯数(コクペッティー地区平均喪失歯数:10.37本,サルジャール地区:15.43本)を目的変数として,二元配置法による分散分析を行った。その結果,従来より報告されているように,遺伝子多型により喪失歯数の違いがみられた(p>0.01)。しかし地域が異なると,著しい喪失歯数の違いがみられ(p>0.001),地域差の方が,より大きな影響因子であることが明らかとなった。この結果から,サルジャール地区では遺伝子多型以外の未知の因子の影響を強く受けていることが考えられた。未知の因子としては放射線の影響が最も強く疑われ,放射線の顎・顔面・口腔系への影響は深刻であることが強く示唆された。
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