研究課題/領域番号 |
12610001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 知正 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50110284)
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研究分担者 |
高橋 哲哉 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (60171500)
宮本 久雄 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50157682)
山本 巍 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (70012515)
野矢 茂樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (50198636)
門脇 俊介 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (90177486)
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キーワード | 歴史性 / ナショナリズム / 物語行為 / ナショナル・ヒストリー / 物語の抗争 / 相対主義 |
研究概要 |
初年度の研究は、古代については、プラトンにおける戦死者追悼演説と哲学の言語の対比をめぐって、中世およびヘブライ思想については、聖書テキストの言語を出来事としての「イエス」の記憶と証言として解釈する可能性をめぐって、それぞれ古典的哲学における「歴史性」の位置を探ったが、研究の中心は近代および現代の哲学と歴史的思考の問題に置かれた。 1)近代哲学のディスクールに「歴史性」の問題が本格的に登場してくる経緯と要因をめぐって、ドイツ観念論初期の哲学が検討された。その際、カントにおいてはコスモポリタン的・非歴史的思考が優位していたが、フィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』に見られるように、ナポレオン戦争の敗北をきっかけにドイツに起こった「抵抗のナショナリズム」を動因として、哲学的ディスクールの歴史化が始まったという見方と、カントの『判断力批判』においてすでに、思考の言語被拘束性の自覚を通して、非歴史的アプリオリズムの乗り越えが始まっていたとする見方が対立した。この点を、ヘルダーなども考慮に入れつつ再検討することは次年度の課題の一つである。 2)現代的な「歴史哲学」の有力な形態である「歴史の物語論」の妥当性と有効性が検討された。その際、歴史叙述を物語行為に還元し、物語る行為から独立した「過去自体」の確認不可能性を主張する「物語論」は、独断的歴史哲学への批判としては妥当するが、歴史のフィクション性を前提し利用しつつ登場する「国民の物語」としてのナショナル・ヒストリーへの批判には無力で、むしろそれと両立しうること、歴史的責任が問われる場面では、「物語の多様性」を擁護するだけでは不十分で、悪しき相対主義を乗り越えられないこと、「物語の抗争」と呼ぶべき現代的状況の中では、判断による何らかの物語へのコミットメントが不可避に要請されること、などが確認された。
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