研究概要 |
本研究は西洋中世全体を通じたキリスト教哲学の最も基本的な特徴をなすesse(存在)の哲学の成立過程を、マリウス・ウイクトリヌス・アウグスティヌス、エリウゲナという代表的哲学者を取り上げて、それぞれの思想源泉-その多くは東方キリスト教世界に展開された新プラトン主義であった-との関係から明らかにしょうとするものであった。 esseの哲学が中世哲学の核心であるとされているにしては、その成立過程の研究はアウグズティヌスを除けば世界的に見ても未だしの感が深く、我が国での研究となるとウィクトリヌスにしてもエリウゲナにしてもほぼ皆無という状態であった。 ウィクトリヌス自身におけるesse哲学の成立については完全ではないが一応満足すべき成果を得た。彼がesse,哲学を樹立しえた思想的背景をポルピュリオスと「カルデア神託』に探る研究は世界的に見てもうやくその緒に着いた前人未踏の領域で、研究は難渋を極めた。研究を行うにつれて次々に新たな問題が明らかになったが、ポルピュリオスの専門家であるAndrew Smith教授との研究交流を通じて研究の課題と展望を明らかにすることができ、この方面の研究は今後も継続したい。 アウグスティヌスに関してはほぼ予定通りに研究を進展させることができた。 エリウゲナについての満足できる成果を得た。特にエリウゲナと新プラトン主義に関してはDermot Moran、Eduard Jeauneau、John Dillonの各教授らとの研究交流により貴重な資料を得ることができ、また世界の研究状況の中で本研究の意義を位置づけることができ、今後の展望を開くことができた。 本研究の結果として概ね満足できる成果を得た。研究成果は機会を得て学会などで発表するとともに、近い将来、一冊の専門書にまとめるつもりである。
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