本研究の目的は、西洋中世哲学を基本的に規定するesseという概念の成立と展開をマリウス・ウィクトリヌス、次いでアウグスティヌスを経て、さらにエリウゲナに至る哲学の流れの中に探り出して明らかにしようとするものであった。 まず西洋中世のesseの哲学はキリスト教哲学者ウィクトリヌスにその端緒を見ることができる。本研究ではウィクトリヌスがその著書『カンディドゥス宛書館』(Marii Victorini rhetoris romae ad Candidum Arrianum)においてキリスト教の神をesseと規定した経緯を分析し、その概念の意味を考察した。その結果、ウィクトリヌスがesseの概念を確立することができた背景として初期の新プラトン主義からの影響関係、特にポルピュリオスからの影響関係を明らかにするさらなる研究が必要であることが判明した。 次いで本研究は、ウィクトリヌスの影響を受け、彼と同様に神をesseと規定したのみならず、そのesseの概念をより明確により精密に規定したアウグスティヌスにおけるesseの概念の解明を試みた。彼の各時期の重要な著作を取り上げて彼のほぼ全時期にわたるesseの概念を考察した結果、彼のesse概念は中期に確立されたと結論としてさしつかえないと思われる。 さらに本研究は、アウグスティヌスの伝統と東方ギリシャ教父の伝統を受け入れて独自の哲学体系を樹立したエリウゲナにおけるesseの概念の解明を試みた。その結論としてエリウゲナのesse概念は「無」(nihil)や「超存在」(superessentialis)の概念との連関において独特の深みを持つことが明らかにされた。 本研究の成果は部分的に公表されているが、さらに今後、研究を整理して順次発表して行きたい。
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